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高野苺

心が震え、考えさせられる作品です。

ネタバレ
2025年9月20日
このレビューはネタバレを含みます▼ 小さいときに離婚で父親がいなくなり、母親も亡くなり(しかも自分で…)10代の子がかかえこむには重すぎる背景です。人の死というのは、ただでさえ心が軋むのに、実の親ならなおのこと。優しすぎて、みんながしあわせになれる世界を考えている翔には、その後のこと(前の学校の友達など)も含め心が病んでしまう十分な理由だったと思います。
菜穂が「翔のせいじゃない」と言った後に須和が「お前のせいだよ」と、翔の生きる気力のために敢えて言ったその思いにも心打たれました。「だから、生きろ」と。
また、須和は「過去に戻って大切な人を助けたいがために
今いる自分の子のいない世界をのぞむ」わけじゃなく、「過去は変えられない、そんなことはわかってる。手紙が過去に届くかもわからない。変えられないんだ。でも、どうやったってあの時の後悔が離れない。せめて、せめてあの時の自分がこう言っていたら…この行動をしていたら……」そういった後悔から突き動かされた結果の、手紙を送るという行動だったと思いました。今ある菜穂とこどもとの未来が変わってほしくて過去に手紙を書いたわけではない、とわたしは受け止めました。また、パラレルワールドの話をしていたので、違う世界で幸せになってほしい…生きてほしい…そういった「願いを託すため」の手紙だったのではないでしょうか。
また「菜穂ありきの、翔という存在が生み出された」漫画というよりも「翔という存在がいて、彼のために1番近くに必要な人は菜穂のような性格の人」だったのかなと思いました。翔は心がとても不安定なので、周りの友達には勢いよく伝えてくれる人や守ろうとしてくれる人が、将来を共に過ごす人には、受け止めてくれるような、悩み考え寄り添ってくれる菜穂のような性格の人が必要だったのだと。個人の勝手な意見ですが…。
優しくしたいのに優しく出来なかったり、つげる言葉を間違えたり…心は毎日揺らぎ、その日の心によって、昨日は大丈夫だった言葉が今日はダメだったりその逆もまたあり、毎日後悔するけれど、やっぱり先を生きないと自分の行動の結果や誰かの行動の意図を見つけられないと思うから、翔がパラレルワールドで生きてくれてよかったと、心から思いました。心がかなり揺れ動いた作品でした。
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