会議室の恋人
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会議室の恋人

ナタリー・アンダーソン/荻丸雅子

境遇は本人に責任がない

2016年7月31日
境遇が産み出したものが人に曇り眼鏡をかけてしまう。よかれと思った厚意も、頑張っていることへの応援も、その人への好感もみな、逆境にある人にはひねくられて受け取られてしまうことはある。

好きだった人が再び目の前に現れたら、終わってない限りまだ好きということ。

ベッドシーンが多過ぎと感じたが、あとがきによればそれでも減らしたようだ。でも、進行上互いに忘れるには厳しいほどに深く愛してしまったことはそこからも描かれる。身体のみならず互いに孤独を忘れることの出来る相手。

そこでなの?と、初めて一線を越えるシチュエーションはまさに表題に沿う。驚きだ。取引相手なら余計に気を遣うのではなかろうかと。
ここで私はとりたててお話の成り立ちを否定するわけではなく、そこまで求め合う気持ちには抗えなかったと言いたいのかと、一気にスピードで登っていく二人の感情に逆に感心させられる格好。お話の中は「忙しいCEO様」が本当によく動き回ってくれる。

不幸な生い立ちが彼をいい意味でも悪い意味でも意地にさせた。

ヒロインの現在の大変な日々には泣かされたし、それでも頑張る姿には心から応援したい気持ちにさせられる。

身内に要介護状態者を抱える大変さ、支える人がヒロインしかいないなんて辛すぎ!
彼が手を差し伸べるのは恩返しからであっても、ヒロインの生活が劇的に変わることにはなるだろう。職探しが大変でオークランドに出てきてるのにやめてしまったのが、もったいない気持ちにはさせられたが。

認知症の悲しい現実を前に挫けそうになったヒロインを受け止めなかった彼と、誕生日を忘れていなかった彼の姿がどうしても重ならないが、誕生日を覚えていたことは、ヒロインにとっては若い頃の自分の苦い記憶を甘く変える最高のシーン。泣いてしまう彼女に同調してしまい、何度読んでもここは感動するところ。

確かに絵柄には綿密な描線ではない印象が残る。特に鼻は気になる。金持ち時代とのギャップが感じにくい。

しかしそれを乗り越えて、作品の持つストーリーの引力は、自分たちそれぞれの気持ちを充分確認したプロセスで発揮され、二人の素晴らしい未来を予感させてくれるエンドのすっきり読後感へ。

以上をふまえ、じつは、気持ちは★4個半、四捨五入でこの表示形式では結果として5個のつもり。
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