フィアンセがいるのに
」のレビュー

フィアンセがいるのに

ジェシカ・スティール/忠津陽子

旅行に出たいと思ったときには既に迷いがー

2016年11月7日
綺麗に整ったストーリー。
外国旅行で自分の心の底を見つめる。本当の相手、愛する人が出現して、敷かれていたレールを降りる。言葉は悪いが乗換える。自分を犠牲にしない。婚約不履行もので、修羅場無し。

このまま進めていいの?ほんとにいいの?などという潜在的な悩みが、どこか遠くに行ってみたい、という気持ちに向かったのだろう。土壇場で揺れ動くマリッジブルーよりも、どうもなんだか違う気がする、という直感が裏で動いたような本能的な行動。元来いい子で育ってきたヒロインには、約束をたがえる意思は無かった。彼や両親など周りの期待に応えることのほかを考えているわけではなかった。
それでも、人の心は本当に好きな人を見つけてしまう。
結局好きでもない人を好きになろうとするこういう話は、見えてるところが多い展開。そのなかで、抜き差しならぬ生身の感情と悪い人間になりたくない道義的感情とのジレンマをどう収束させるか、だけ。

ヒロインは少しおキレイ過ぎて巻き込まれた当人してない。
彼は肉食設定なのに行儀がよく見えてしまう。手荒に迫っても、何となく読み手のこっちには迫った印象が薄い。
それは、作風が忠津先生そのもので、清らかでスッキリしているから。

昔大好きだった先生のハーレクイン参戦。
大変懐かしくてたまらなくて。

HQには、はっきり言ってお金払って読むのはどうも、という作品が多いことを知っている。その点、先生クラスならそんなことがあり得ないことは立ち読み段階で分かっていた。

忠津先生クォリティをもってしても、このストーリーには、胸に迫るヒロインの揺れ動きが少なくて、登場人物の物分かりが良くて、誰も彼も一枚こっちに来ない、距離感が残る。
危なっかしいような事が危なっかしそうでない。
原作ものの限界なのだろうが、アザラシのことも、少女マンガでの捨て犬を拾って優しさを表現するのに似て気持ちが乗れない。服が濡れて脱ぐ、一晩そこで過ごす、どれも既視感。高揚し辛いベタ展開。
ドロドロを期待している訳じゃない。現に登場人物たちは、話の中で悩み考えている。

でも、ドキドキとかキュンとか、上がるとか赤面するとか、恋をすれば陥る場面に浸りたいのだ。だから臨場感ある追体験的恋愛になるべきイベント一つ一つがドラマを盛り上げ、しっかりラブモード演出してくれないと。

要するに、もうひとつ萌えが欲しかった。
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