嘘つきな薬指
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嘘つきな薬指

ナンシー・ウォレン/高倉知子

一撃のあとの展開は 敵と味方の両極端

2017年1月6日
転職先の素敵な社長さんから一目惚れされた。
それについて、移った先の企業の従業員は、新入りのヒロインに嫌味など言わない。やっかんだりするような場面など一切ない。それどころか、二人に対して、いい感じの暖かい目で見てる。

前職の職場環境は最悪だった。大企業といえど、セクハラの被害に泣き寝入りせざるを得なかった。辞めさせられた悔しい被害者。読んでるこちらも言い様のない怒りを感じながらもどかしく読み進めざるを得ない。
その辛くて孤独な闘いは、ヒロインに、既婚者という武装を思い付かせる。それだけ懲り懲りだったのだろうが、どれ程過酷な仕打ちを受けたにせよ、独身女性の採るやり方ではないだろう。ま、そこはお話だから目をつぶるとして、それでも、身上を偽っての就職は違反行為でまずい。
がしかし、それもそこは、HQのドラマツルギーとしよう。

嫌がらせをする人間は、自分に都合のよいように、言葉で相手に更なる二次被害を与えてくる。
そういう悪い人間に限って、他人に自分こそが被害者なのだと言葉巧みに主張し、真の被害者を加害者に仕立て、周囲の目を欺く。目撃者のいない辛さ。
このストーリーは、そうした悪賢い人間をやり込めてくれて、復讐心の火を鎮火してくれる。

目撃証言は本当に重要で有効だ。再び嫌がらせを言われたときは、今度は味方になってくれる人が居合わせてくれた。
なんてひどい、と、共感してくれるところからスッキリ晴々結末へ。

タチの悪い性的嫌がらせを最後に叩けて本当に良かった。この爽快感で星5。


そして、自分の身を前の勤務先で遭ったような被害から守るために嘘をついたヒロインが、転職先の人間に心を開けないでいたときのその転職先の女性たちの暖かさ!素晴らしい!女性が女性の味方をすることの心強さ!

頭で割りきれず、惹かれてしまって抑制が臨界点、彼のはち切れそうな塞き止めきれなさそうな好意が微笑ましい。
実際にはヒロインは既婚者のフリだけだったからドロドロなストーリーとは無縁となるが(HQで、泥沼ラブは見たことがまだない。不倫を表から扱うと不幸になる女も出てしまうから、編集方針にそぐわないのだろう)、本当に既婚者だったらどうなるだろう、と思う。

話の滑稽な進行が当人達の真面目さに乗って、オフィス内恋愛が簡単に咲かないところが逆に障害あるがゆえのドラマを形成。ドタバタで、お腹のよじれるコメディ。
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