失楽園に濡れる花
」のレビュー

失楽園に濡れる花

冬森雪湖

愛と憎しみの先に見える真実と現実

2017年1月14日
1巻目で、主人公があまりにも辛い目に遭うのでしばらく続きを読んでいませんでしたが、気になっていたので最後まで読みました。

最後まで読んで真相が分かると、180度違った視点でこの作品を見つめることになります。
主人公も様々な辛い境遇を乗り越え、最初とは別人のように強い素敵な女性になっています。

このような、復讐劇でありつつ読む人の心に残るような強いメッセージを持つドラマ展開を描かれるのは、さすが冬森さんだと思いました。こういうストーリーを描かれると、群を抜いています。

しかし最初は本当に酷かった…。確かに主人公は何も知らないお嬢様でしたが、何も知らないからこそ、こんな目に遭うのはあんまりです。
まぁ世の中にはこんな世界もあるし、ある日突然そんな世界に足を突っ込むことになる不運な人間もいると思うので、そう考えると…リアルな世の理不尽さを描かれているのかもしれません。

なので、死にたくなるほど苦しい状況の中でも、自分を幸福にするために前を向くしかない。それを、主人公がボロボロになりながら学んでいく物語です。そして読んだ人も同じように、強く生きなくてはならないという気持ちにさせてくれます。

ケイトがしたことは許せないことだけれど、彼のことを知ってしまうとそうも言っていられない複雑な気持ちになりました。
冬森さんの作品は、読んでいて読者が思うことと、主人公の思う気持ちが本当にシンクロして凄いと思います。憎さと、彼の本心が気になる惹かれる気持ち、そして真実を知った時の揺れる心…。そのどれもに納得して共感してしまいます。

ケイトの英愛に対する気持ちも、細かい描写はされてませんが、伝わってくるところが凄いです。
彼女自身に恨みがあったわけではないから嫌いというわけでもなく、むしろ惹かれる気持ちと罪悪感もあったのだろうな、と最後まで読むと改めて思えました。
彼も生きている限りは、そんな生き方しかできなかったんでしょうね。
そこへ複雑に絡み合ってくる薫という存在と、薫の立場と想いも切なかったです。

家族愛だったり、好きな女性への気持ちだったり…それらが時には人を狂わせ、間違いを犯す。けれど、100%間違いだと責めることもできない…。今回も考えさせられることの多い作品でした。

こんなストーリーだったけど、いつでも助けてくれるトウダイ達が側にいてくれた英愛は幸せ者だと思いました。
いいねしたユーザ2人
レビューをシェアしよう!