仕組まれた情事
」のレビュー

仕組まれた情事

ジェニー・ルーカス/小越なつえ

復讐する相手を愛してしまう

2017年3月31日
嫌い嫌いも好きのうち、ヒロインイヴの復讐の虚しさだけが痛々しく私のなかでしこってしまった。
憎しみのループ、ヒロインはその間の時間の浪費にふと我に帰る。記憶喪失前の行動の内に秘められた、否定しても自分を嫌悪しつつも抱いてしまっていた彼への愛。
彼も、ヒロインの裏切りの痛手大きく、彼女にはキッチリとやり返すつもりだったのに、徹しきれない、、、。

記憶喪失になって性格が前とは別人、というストーリーはHQでは数多くあるかと思うが、これは、過去の彼女は、彼からすれば悪人に近かったというところで、彼の復讐心もむべなるかな、というところ。
そして、イヴの復讐とは一体意味のあるものだったのか? 恨みは悲しい考え、のヒロインの育ての父の台詞が谺する。

彼は結局ヒロインを前にして復讐などどうでもよくなっていくのだ。
相手を予定通り捨てたいのに捨てられない。
憎もうとして、憎めない相手。
彼の復讐心を砕く彼女への愛は、彼を未来思考へと導く。

激しく愛し合う二人の絵柄がちょっと・・・。丁寧な美しいシーンとばかりもいえず。
HQに刺激が少し欲しいなら、いいのかもしれない。

追記:
今読み返してみたとき、テンポ良い進行、記憶回復過程の、彼女の過去のヴェールが少しずつ剥がれて解明されて行く、小出しの真実の全体像への興味とで、もう一度読んでも初回から飽きていなかったことに気づかされた。
2回出てくる溜め息の橋の絵含めベネツィアの雰囲気がタップリ。それに、陽光バックの想い出のシーンにダブらせる橋のキスは良かった。
そのため、三ツ星半超に上方修正することにした。
ただ、ため息の橋の下はゴンドラは通れた気がしないが。
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