鏡の中の女
」のレビュー

鏡の中の女

英洋子/シャーロット・ラム

マジックミラーの中の姿 愛と記憶

2017年8月11日
記憶喪失がその人の印象まで変えることがあるということを利用した筋運びはHQでは定番の感があり、からくりに用意されている設定も珍しくはない。
けれど思うのは、そんなに判らないものなのかな、という一点。
一度は好きだったんだろう、それなのに、そんなものだったのかと、疑問が湧いてしまう。

抱いてから?、やっと彼は確信する。
抱くまで長いから、確信までも長い。
結婚まで考えた相手と、病人として滞在期間の長くなったヒロインとの、二人の間に横たわる違和感。彼女が騙してるとか、病気とか、それなりの理由をずっとそれまで思い込む。精巧なソックリさんなんてそうそう居ないのだから。
と、それにしても、仕方のない流れだといえるだろうか?

篠原先生の「海の闇、月の影」の当麻克之が頭に掠めるのは、人を愛するとは、他では代わりの効かない、その人でなければならない、という、そこにただラブストーリーの根本を思い出すからなのだと思う。

その日まで愛し合うに至っていなかったから、という理屈の上では、早く出ていって欲しがった初めと比べて愛し合うまで、のんびり感じる。
ヒロインの方も、ほんとにそれって自分?との思いが膨らむ中で、何故か手ぶらで自分がそこにいた前後のことを、少しでも現場の状況の真相を探ってみないか?普通。

小説嵐が丘ではないが、その人でなくてはならぬ要素の欠乏感が拭えず、なぜ同一視しながら好悪ない交ぜに前へ進めるのか、私には星は上げにくい。

絵に、家の外と中との様子や、霧のかかる景色とか川の事故のシーンの挟まれ方など、背景の随所に説得されきってない感じが残った。
モテ男ぶりをなるほどと思わせるほどの引きが、彼のキャラには私には足りない。

厳しい自然と母と暮らす男性に、冷たくされても突っかかってこられても好きになる流れが見えてこない。
キスをしそうになるシーンなどにさえ入っていけなかった。ドキッとさせられるべき時に期待が募らないと、一線越えも甘さが見えてこない。二人には酔い損ねた。単体で彼女の裸体は綺麗なのに。

マジックミラーの台詞は良かった。邦題の付けられたセンスと、ストーリー中での印象的な言葉との協調が、締まりを感じた。

暫くの間遠ざかるつもりだっだが、三連休前に久々にこの世界に息抜きに来た。
501冊目のレビューを書くにあたり、この節目に名前は知っているが初めて読む先生にした。
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