窮鼠はチーズの夢を見る
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窮鼠はチーズの夢を見る

水城せとな

心をえぐられる

2017年12月23日
押しに弱く流されて捨てられると自覚しているノンケ大伴と、そんな彼に学生時代から一途な想いを寄せる後輩のゲイ今ヶ瀬のお話。

ノンケがゲイの後輩を受け入れるまでの葛藤の表現力がすごい。彼には人生の選択と言える大きな壁だと思うので綺麗事では済まされないリアリティがある。ウンザリさせず先を知りたいと読ませる抜群の吸引力がお見事。未知の世界への不安が明確になった時にはもう後戻り出来なくなっていて 。今まで女性のせいにしてきた彼がゲイと向き合う事でやっと立ち止まる、立ち止まったばかりに追い詰められる皮肉な展開がとても彼らしい。

一方怖いくらいの執着を見せる今ヶ瀬は、大伴に詰め寄りながらも押し切れず、惚れた弱みの惨めさが痛々しい。大伴を揺さぶりながら更に自分を傷つける。馬鹿な男と切り捨てる事が出来ないのは、今ヶ瀬の姿には人間関係や仕事や子育てに通じるところがあるからなのかも。話は今ヶ瀬の粘り勝ちに見えて、果たしてこれは勝ちなのか。何度読んでも散々心をえぐられた読了後もまだ迷わせる…素晴らしい一冊。続編「俎上の恋は〜」があります。大伴の元カノ夏生と今ヶ瀬の会話をもっと見ていたかった。

水城作品は少女漫画から何冊か読んでいて、人間の欲望を上手くストーリーに絡ませてくる展開に中毒性があるんだけど、この作品は大人の恋愛に更に棘を巻きつけて来た作者さんのキャパシティの大きさに圧倒されました。あとこの作品はコミック本で持っていますが安いですよね。読み応えのある秀作が8年変わらず今も同じ価格。最近本も電子書籍もどんどん値が上がっているので…。
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