このレビューはネタバレを含みます▼
ごく普通の高校生だった少年が、子供の頃の記憶を取り戻し、姉と再会し、一族の病に犯されて、徐々に社会から隔絶されていく過程が圧巻でした。
閉鎖的な世界観を好む方なら楽しめると思います。
一族の病を発病した一砂が、静かに、少しずつ姉である千砂にのめり込んでいき、最後には千砂の血を求めるのではなく、千砂自身を求めていくようになっていく様子や、父親に心身を囚われていた千砂が、それに抗おうと足掻く様子は、生々しく、真に迫るものがあります。
最後にはこの一砂と千砂が互いに愛し合うようになるわけですが、あくまで近親愛であって、近親相かんではありません。
千砂と父親の関係について、作中では思わせ振りなことが描いてありますが、あれらの描写はあくまで自らの血を肉親に啜らせるということの背徳感を読者に味わわせるための暗喩であって、実際のところ性的な体の関係は皆無でしょう。
現に、千砂はこの病の血は自分で終わらせる(子供を作るようなリスクは犯さない)と言っています。それは、病が原因で最愛の妻を失った父親としても同じでしょう。千砂よりも妻を愛していたのだから、尚更です。
姉弟間で口づけを交わし、血を啜り、啜られるという背徳感。
他人の血を欲するという自らの病をも超越した愛。
そして、最後には二人で死に至るという幕切れ。
この上なく完成された物語でした。
ただ一つ不満があるとすれば、最終話でしょうか。
心中したはずの一砂が、記憶喪失になり、生き延びています。
一年もの記憶が抜けているという事実を隠し通せるわけがなく、しかも一砂の吸血欲求を誘う八重樫が一砂の側にいるのだから、遠からず病が再発し、記憶を取り戻してしまうことは明らか。
どちらにしてもバッドエンドは目に見えているわけで、あの取って付けたようなラストは蛇足な感が否めないかと。
作者の強い個性が窺える独特な漫画だっただけに、あの終わりかたは勿体ないです。
それ以外は文句なしに面白かったです。
ほの暗い話が好きな方にはおすすめです。