このレビューはネタバレを含みます▼
どの掌編も一言で感想を述べるなら凄い!に尽きる。ただ、どう凄いのかと問われると説明するのは難しい。色々な色がまだらに入り乱れた色彩の暴力とでも言おうか、とにかくいろんな感情が溢れてきて圧倒されるとしか言いようがない。
ただし、異形の生物たちの絵柄もさることながらストーリー自体もかなり人を選ぶと思うので、下にネタバレを交えて感想を添える。
1作目:家族を殺され虐げられて復讐心に駆られて『滅虫!』を標榜するのは良いとして、まず家族だけでも比較的安全な土地に避難させとけや。たとえ逃げた先も十二脚虫によっていずれ侵食される運命だとしても……。そういう男たちの身勝手さを許容できる人は読んでもいいと思う。
2作目:かつて家族を殺した憎き種族だとしても、普通に家族や社会を持っている中で無力な子供や赤ん坊まで漏れなくジェノサイドされているのを見るとなんとも言えない気分になるのと同時に、報復としてジェノサイドしてる方にもそうせざる得ないだけの事情あるだけに同情できる。戦争に必ずついて回るそういう後味の悪さをマイルドに楽しみたい人にお勧め。
3作目:太陽の気まぐれに翻弄されながら、妻を一途に愛し毎週通い続けて死ぬまで我が子の誕生を待ち続けた夫も、夫の死後も14万年も耐え続けて地球の環境が安定するまで出産を留保し続けた妻も凄いし感動するんだけど、この子達は両親のように誰かと恋に落ちて未来に向けて子孫を残すって事はたぶんできないんだろうな…。って事に思いを馳せてもモヤモヤしない人は読んで楽しめると思う。
4作目:戦いには何かしらの犠牲がつき物だろ!家族や集落を守る為に成りたくもない巨獣になってまで20年以上も体張って頑張って来たお父さんに「尊敬してるけど役立たずの弱い麒麟は要らんから倒されて」って平然とお払い箱にしようとするの酷くね?って腑に落ちない気持ちを押し潰して巻末の巨獣図鑑を楽しめる人にお勧め。
しかしながら、どの作品にも満遍なくあるなんとも言えない後味の悪さや腑に落ちないモヤモヤがあることで、読者の一方的な主観で一面的に割り切れない複雑な歪さが作中に生まれ、人間ドラマに深みとリアリティを与え、それにより単なる異形な生物を見せびらかすだけで終わらない味わいがあるのが本作の持つ大きな魅力だと思う。