このレビューはネタバレを含みます▼
本作はとても優しい物語です。本当は誰も悪意などなく、悪意に見えたものがたいてい勘違いというギャグでふわっとクッションを入れてもらえるので、安心して読めると思います。ただ、序盤のニコル嬢の「諦めてしまうまでの過程」を考えると優しい読者の方は涙を流すほど共感して苦しくなってしまうのではないでしょうか。
真実はすれ違いであり、勘違いであり、愛ゆえであり。だからこそその伝え方や取り扱い方を誤った時、取り返しがつかない。その取り返しのつかなさが非常に切なく、考えさせられる部分でもあると感じました。
入学して1年半。それまでのニコル嬢が婚約者のケイオスに放置され続けたことは紛れもなく事実であり、それが醜聞となってニコル嬢をバッシングや陰湿な陰口に晒したことは全て事実で、この点においては一切の勘違いなどではありません。
軽くマウントを取ろうとしたロベリア嬢ですらニコル嬢が冗談抜きで一人であり続けていたのだと察すると、マウントどころではなくなるほど血相を変え、それどころか同情を突き抜けて自分たちがニコル嬢を守らなくては!とヒーローに敵意を持ってしまい、以後ラブコメにおける場面を引っ掻き回す役割にシフトチェンジしていきます。
本当は王女もケイオスもロベリア嬢も登場人物はみな優しいです。けれどその優しさからくる誰かへの思いや誰かへの親切、誰かに尽くし、誰かを支えようとした結果が、名目上の婚姻だけで良いやとヒロインの心を枯らせてしまいました。
とうとう底まで降り着いてしまい、もう絞り出せるものがなくなってしまったニコル嬢の心は、少なくとも入学1年半を迎えるまで、彼女が下を向かなくなってしまうまで、誰も気づいてあげられなかった。貼り付けた笑顔は吹っ切れたものにも麻痺したものにも見えて切ないです。
優しいキャラクターばかりなのに、そんな彼らでも1年半は婚約者に無下にされるヒロインを影で嗤う側面や無関心でいた側面を持つ。
知るべきことを知ってからやっとことの重大さと挽回の難しさに焦る頃には、その焦りから来る必死の言葉もニコル嬢に届かない所まで来ている。
すれ違うべくしてすれ違い、掛け違え続けた事実の集積が全員にのしかかる切なさは胸に来ます。
ラブコメとして笑える方向でこの物語を描けている両先生は本当に素晴らしいですね。次巻がとても楽しみです