このレビューはネタバレを含みます▼
作中においてナナはその卓越した頭脳と行動力をフル稼働させて能力者たちを次々と殺していきます。その手口は非常に狡猾なものが多く、3巻でキョウヤを公衆の面前で謝罪させるシーンもありナナに対して嫌悪感を抱く方もいるかと思われます。
しかし、その手腕と悪辣さは彼女が鶴岡から叩き込まれたものであって、彼女の全てを物語るものではありません。現にナナオくんを弄んだこと自体は本意ではなかったこと、ユウカが善人であることを最後まで期待していたことなど、殺人劇の中でナナはどこか非情になりきれていない部分があります。
4巻に入るとミチルちゃんとの交流が深まるにつれて、使命への疑念と良心の呵責を端末の文字で誤魔化すことが徐々に限界に達していきます。そして瀕死の重傷を負いながらもミチルちゃんを庇うシーンを契機に、ナナは本格的に苦悩を刻み始めることとなります。
ミチルちゃんは辛辣な言葉で自身を突き放したナナを最期まで善人であり友達であると信じ抜いて命懸けの治療を行いました。一方でナナは治療の最中に「やめてよ!私はいい人なんかじゃないっ!」と心の中で必死に叫びます。ミチルちゃんのナナへの全幅の信頼と、すでに擁護の余地がないほど罪を犯してきた事実のすれ違いがナナの叫びに重みを持たせています。やっと顔を見せ始めたナナの想いも虚しく、彼女自身の罪による因果がもたらした結果としてミチルちゃんは命を落とし、彼女の心に深い影を落とすこととなりました。
ナナは本来情に厚く他人を守るためにその身を犠牲にすることを選ぶほど優しさに満ち溢れた少女です。誰も殺したくないと誓った直後にモエを庇って再び友達殺しに手を染めたり、真実を知らされ絶望の淵に突き落とされた際にも仇敵である鶴岡ではなく殺しを実行した自身に銃口を向けるなど、その優しすぎる性格故に年端もいかない少女が背負うにはあまりにも重い十字架に苛まれ続けています。一度決心したものの都合の悪いことから目を逸らすなど、頭脳明晰ながら精神的な未熟さも感じられます。
それでもなお、僅かな希望を胸に自身が為すべきことを見つけ、不安定ながらも前を向いて歩き出したナナは物語の冒頭からは想像もつかないほど立派な主人公へと成長を遂げています。この非情極まりない世界で彼女がどんな未来を手にするのか、今後の展開がとても楽しみです。