このレビューはネタバレを含みます▼
最後まで読んで、写楽の凄さだけが際立つ終わり方だった。二代目蔦屋重三郎にもたまきにもそれぞれのこだわりや譲れぬものがあるかと期待していたが、結局それぞれが何かの身代わりに執着しているだけ。特に蔦重の人物像に疑問が残った。蔦重が写楽にこだわる背景の説明に結局最後まで納得感がない。ずっと犬を抱いている以外に人間らしさを感じる描写がないのだが?
意図的に義理の娘を恋情で操るところと言い、本妻や周囲からの扱われ方と言い、挙句終盤では版元としての意地も世間からないと思われる人物として描かれていたが、たまきが惚れるほどの魅力がある人物なのか?写楽への執着も、それほどあるように見えない。写楽にこだわるというより、2匹目のどじょうさながら、写楽の娘で父親である初代を超えたかっただけなのでは?
若い頃の様子はともかく、両親を失った娘の愛着を利用して春画を描かせ一蓮托生と縛り、成長した娘が離れそうになれば手を出そうとする手段の汚さ。そこを説明するような絵の道への傾倒が充分に描かれていると感じず、心理的支配に虐◯とすら感じ読後感が悪かった。主人公のたまきは幼馴染と結ばれ良い話のように終わっているが、義父に利用されたことの清算が物語全体としてされているとは感じない。おぎんとの対話が一抹の清涼感を醸し出しているが、結局家父長制の中で若く力のない女たちが搾取され、たまきが傷つけられただけのように感じた。土壇場で義理の娘を色恋管理しようとする展開は描く必要あったのか?たまきの恋に全く共感できず、物語の展開は面白く読み応えもあるのだが、ラストまで読み進めた割に展開からのメッセージ性が薄く、ヘビーな描写を考えるとなかなか読むのがしんどい。おぎんの描き方や、たまきのその後についてもさらにあとひと工夫の余地があったのでは。たまきと重なり合う境遇ゆえに相手を羨み陥れてしまう描写はリアルで読み応えがあった。あと一声欲しかったところでそれも惜しい。幼馴染とも、一息に結婚まで行く前にもう少し何かエピソードが欲しい。
その後義父を慕い続けるとしたら心理が理解し難いし蔦重に対してもヘイトが残る。その辺りを消化しづらい。いい話風に描かれても困る。ドラマチックな舞台と設定、キャラクター像を作り込んでいるだけにそれを使い切る描写と説明がもっと欲しいところ。主人公が分散してしまっているのでは。フラストレーションが溜まった。