HQは過去の不幸を洗い流して、素晴らしい明日を用意する。愛し愛される人とこれからは生きていけることを見せてくれる。つまり幸せにならないヒロインはいないのだ。
この世の地獄を知っているアビーが、追い討ちのように経験してしまった、自責の念を拭えない辛い事件を克服できる話。愛する人に出会えたこともだが、暖かい家庭を知らない彼女が、自分に温かい人たちと新たに出会えたことがまず大きい。その日々の中でやっと安らげる日々が来たことを描写して、このHQもまた、一人の女を救うのだ。否、なんとなく生い立ちに負い目を持つ男も、アビーの出現で変われるのだ。
星合先生の描く男性は私好みのルックスなのだが、この話は違う。厩舎や町の雰囲気、アビーが語る傷だらけのこれまでなどに、絵の持つ説明力は持って行かれた。あと、馬。HQは描ける先生が多くて、そこは高く評価してしまう。馬が登場するコミックを手掛ける先生は、多分そちらにもエネルギーを割かれるだろう。
ロマンス成分強くない。「人に惹かれるのに資格が要るものですか」、おばあさまのこの言葉が、おはなしの世界で言い古されてはいるものの、この話では骨格として存在感を放つ。
大きなストーリーのうねりを期待する向きには満足できないストーリーだろうと思う。現実は世の中もっと簡単ではないから。そんなに一転した幸せを享受する安易な作りであっていいのか、読者が疑うだけだ。私は、ヒロインにこれ以上の仕打ちを望んではいない。恋の悩みは通過儀礼としても。
私は、レンタルで読んで、また一人の幸せを見届けられて気持ちいいのだが。愛は全てを解決する力があり、乗り越えさせる癒しとなり、日々を建設的に生きるニンジンにもなる、というちょっとした応援歌で。