骨ばった男の指と、爪先の美しい女の指とが描かれた、重ねられた手の絵がいいと思った。
何者であっても好き、というパターンが好きなので、この話のヒロインが彼に「あなたがあなたでありさえすれば」好きと言うところが気に入っている。
資金援助をカタにヒロインを我が物にせんとする男はHQにはいくらでもいるのに、このアレックスという男は、そこにつけ込んだと思われたくない、との意地から痩せ我慢をする。真面目というか、本当の紳士の心を持っている。
他のレビューアーさん達と同じく、絵の綺麗なこと(髪型についても)がまず大きなアドバンテージと思う。私は紙で中古ショップの本を立ち読みで数頁かつて読んでおり、売れてしまって書棚から無くなったが為に、ここに読み通しても構わないと思った。表紙の絵、扉絵、紙より色目の美しさがよく出ており、見比べが出来たことが却って、電子書籍の長所を発見した気分だ。またこれも他のレビューにあるように、二人のピュアなこと。貫いている。とてもいいと思う。脇目を振らず気持ちが相手にある、ということを見届けさせて貰った。
出自にうるさいのはいずくも同じ。そしてHQあるあるの、屋敷の主一家と使用人の家の子の恋愛が親にバレて、無理やり仲を引き裂かれた過去。
岩崎先生の男性は所謂偉丈夫なので、卑屈に出られると読んでいるこっちが、いい加減シャキッと堂々としてなさいよ、と、言いたくもなる。
しかし無理もない。事実無根の噂を根拠に、醜聞を恐れた雇用主によって、屋敷を後にせざるを得なかった過去。住み込み先から追い出された母に従うしかなかった雇う者雇われる者、そしてその家族の関係。追われた屋敷のある地に戻って事業するとなれば、過去は付きまとってくる。かつて近くにいた悪い人間たちもまだいる。
確かに上流階級は成り上がりにやさしくない。彼らには、新参者によってその文化を崩壊されたくないのだろう。
しかし、この作品に出てくるテキサス・キャトルマンズ・クラブはアレックス当人がそこまで卑屈に思う必要はなかった。アメリカン・ドリームこれぞ、なのである(溶け込む努力は勿論要った)。
そのクラブの人間関係は読後感を爽快にしてくれる。過去の因縁の、二人が引き裂かれた原因となった噂に対する決着も出来て名誉挽回のチャンスもしっかり。
セットで読んだが、単品でもレビューを入れた。