大人の感情。冷静で仕事に邁進の日々、自分を解放させられる場の発見。
渡辺先生の描かれる世界はどうしてこんなにも単純じゃない心理劇なのだろう。
本当は好きだったのに自らを欺き、自分の感情を偽り続けた、否、意識的に強く感情を回避させてた。出会いの当初に封印したから、発展「させ」られなかった。魅力を認めるわけには行かなかった経緯が縛り続けて、解放されなかった。加えて職業も立場も。二人の状況は固定されてた。
範囲の外に置いておき、見ようとしなかった。
彼の、賭けに出たかのような行動は、彼にも大きな危険が伴う方法だったが、ジェンナにはこれ迄の自分を解放という一定の効果は、想定外にも、大いにあったわけだ。正体は読者に対して隠したのでなく、ジェンナに対して。故にバレるバレないのリアリティーではなく、彼の正体が判らないことを問う、分からなかったらひかれる相手なのだ、という真実をばらす場面を造ってみせたのだ。膠着していた二人の関係に、仮面舞踏会の出会いというHQ的小道具をメタファーに持ち込んで、その仮定(置き換え)で進むとジェンナはどう行動するか、で物語が構築された。
しかし彼女は騙した彼を許せず、思いきりー。
その鉄拳もまた、彼女のしがらみを断ち切るきっかけにもなったが。
異なる部分も大いにあるが、HQ「疎遠の妻、もしくは秘密の愛人」 をなぜか思い出してしまった。
「仮面のささやき」の方は、目が見えるがために暗闇、そして、より生身の肉体の魅力が出ており、また、互いの立場も全然異なるが、相手に素直に本当の気持ちを向けることの難しさ。一方、大胆になれる相手には自分を一皮剥かせる事が出来る。
向き合う前にかわし、正攻法はこれまで出来なかったこと。
読んでいて、ニックの回り道のような粘りが、最終的に、頑なになっていたヒロインの心を開かせてシンプルに好きだ嫌いだとなれなかった二人に効いたことが、仮面という正体を隠せる便利な小道具のおかげだったんだなぁと、相手の顔が判らない庭の声も、仮装の姿も、直接誰とは判らない事が良かったんだなぁと、話の運びかたに感心。
絵はホントに上手で相変わらず表現力に初めから圧倒される。
ただ、彼の顔、女性ぽく見えた。チャラ男に見えるのも、本心が見えない手法としては奏功するも、有能弁護士であることを結び付ける視覚説得力小。中性的な雰囲気が漂う。気にならないが。