男裝の麗人は無理無理設定なのはわかりきった上で楽しむと、仮面舞踏会のポイントは高い。
女性であることを気づかせてくれる感情の発生、自覚。その仮面舞踏会は最初で、そして最後にもなるかもしれなかった貴重なチャンスだった。
人を好きになるということに、着飾った姿だけで相手を気に入るわけでもなく、まして、相手の氏素性で周囲に決められてしまう家同士の結婚なんて真っ平だと考える、そんな普遍的なところを、一見変わり種ストーリーで語っている。語り合い、屋外趣味を楽しむことによって過ごすひとときを通じて、理解を深めあう二人。但し男女としてでなく・・・。
職業軍人として全うしようとして最後まで表情を保ち態度を崩そうとしなかったヒロインと、相手国の情勢を調査する思惑のある、慎重で警戒を解かない公爵と、互いに固さは取れず、それゆえに甘いシーンはずっとない。
それだけに、女として参加するとなった仮面舞踏会の一世一代の変身は、それまで制服を脱がなかった彼女の唯一の大きなラブ全開のイベント。
ガラスの靴ならぬ、手袋の落とし物、これで捜索してわかるだけでは、皆の知ってるシンデレラストーリーになってしまうから、一捻り効かせたわけだが、そこが、逆に公爵の鈍ぶりが見えて最初から最後まで女心は少しも読めないタイプであったと見せつけられ笑える。ここまでなにも自力でピンと来ないタイプだからこそ、ヒロインに、女女したルックスや、女性に期待される家事能力をありきたりに求めないのだろうと感じて、逆に好ましい。
ベルばらを思わない人はいないと思うが、人を好きになると好きな人には、その人のその目の中に、自分が女性としてちゃんと見てもらいたい気持ちはよくわかる、ある意味永遠の女心を描写している。
また、男性のような生き方をしてみたらどんなであっただろうかとの、潜在的な好奇心?願望?も何となく突いてきていて、ちょっと面白い立ち位置の作品。
他のレビューアーさんの指摘にもあったが、コマのバックの描かれ方がもの足りず白っぽさは確かに気になる。
唯一107頁は白い方が、なにかと伝わるシーンだとは思う。
ストーリーの既視感と、両人のバックグラウンド故に表情の動きが封印されるコミックらしさの不足感とで、4.5。どちらも仕方のないことだが。