偽装夫婦の話。流れは想像がつくが、恋を知らなかったヒロインの言動にはハラハラ。彼が怒って帰ってしまうかも、みたいな見当違いの恐れを抱いて読み進めてしまったら、なんのことはない、決裂というより、契約満了に伴う別離で互いに忘れられず、という他愛もないところで片付いた。ヒロインの会社幹部は人が悪い。
しかし、ヒロインも引っ込みのつかない嘘をついて上塗りしていく苦しさと、どうしたらいいのか戸惑うばかりの彼への感情の高まりと、この二つでクライマックス突入。
彼にずるさがないだけに、ヒロインに対し私は、貴女は自分の気持ちをきちんと伝えるべきと思いながら読んだ。
お金の話は、こういうことはきちんと、という、性格であっても、相手とのやり取りの中にどう入れるか、彼女的に難しかったか。
それでも支社長を任されるほどの人物なら、そういう空気の読みは出来ないはずなかろう、とも思ったが。
ヒロイン、可愛いところもあるがなんとなくダサい。しかし、アシスタントの子が嬉しいことを言ってくれるのは、ヒロインがいくら仕事一筋でも、下の人間が付いてくるようなキャラであったこと明確。
彼が弁えて役どころを全うする信用のおける男性であるのもポイント高し。
それにしても、そういうことは総務が正しく掴んでいないと彼らが仕事出来ないはず。
同じ趣向の他作品(「いたずらな嘘」ジェイン・サリヴァン/花津美子)を以前読んだが、嘘に対する取り繕い方と彼への接し方は違う。本作のヒロインは控えめで黙々と自分のことを着々とこなす上で、どうしても「夫」が必要なときにだけ頼るという、がんばり屋気質。
そんな人間がふと振り返って心に入った来た彼を思う、変貌ぶりがいい感じ。
彼は後説明で、あれから、の彼サイドの話をするが、描写としてもっと絵で出して欲しかった。