意地悪な娘二人と冷たい叔父と叔母、その人達の居ない間に羽根を伸ばせるお留守番。留守中には家の事もする日々、ヒロインアリスのクリスマスはかなりシンデレラのそれでした。彼は客人として登場。
気持ちの自覚とは裏腹に、すぐに無邪気に結婚の夢を見ないところが、HQ標準のリアリスト、アリス。彼もまた自分の社会的な立場を自覚して抑制モード。
本家のシンデレラは、男女という前に王子と庶民という圧倒的な違いを乗り越えて「見初められ」ステップアップの構図が前面ですが、こちらはアリスがある程度良家の子女で、彼は客人であり、立場の調整要素加わります。自分の意思を表明出来る状況。ダンス数曲の短時間などではなく、互いをよく知る事の出来る数日間が展開されます。子ども達や部下や使用人達と過ごす最高のクリスマス。
それでも、彼はアリスの身分を気にします。それが普通だから、そう考えても仕方のない当時のこととはいえ、やはり如何ともし難いものかな、と、頭の片隅には本家シンデレラの結末がちらつきます。
彼の衝動と節度。多くを望まないように自分を抑えたヒロインのこれ迄の想いと、求婚と勘違いしそうになった乙女の純情がチクリと胸を刺します。
彼の、ヒロインを傷つけたと振り返る我が身の行動への反省描写で、ヒロインと読み手のこちらをほっとさせて、悪いヤツあるあるの、コロッとゴマすり人間に豹変の小憎らしい手のひら返しまでつけて至れり尽くせりです。
身分の違いなど乗り越えて、相手が誰であろうと気持ちを貫く、というのが大好きな私には、相手が何者かをよくわからず好きになって行くパターンをシンデレラストーリーに混ぜ込んでいることも、嬉しいところです。
家の中が相当細やかに描き込まれているのが素晴らしいです。真っ白な背景ばかりのHQがかなりあるので、このレベルに満足します。さすが村田先生です。HQ「愛のアラベスク」のとき小物に至るまで細やかに筆を使われていたことに感激して以来、絵に相当期待しております。
人に仇なす者は己に返る、という所なく永遠のハピエンの幕は閉じてしまいますが、本当は、従姉妹達の鼻を空かす、というシーンで痛快さも欲しかった、というのが読み手としては偽らざる気持ちです。アリスと伯爵とのことを知らされた直後のお年頃従姉妹の二人や叔父叔母のリアクションを見たかったな、という野次馬根性は行き場を失いました。