このストーリーの核は「秘密」と、その秘密を「話す」こと。言わないのは事情がある。心理的抵抗もある。自分を守っているというのもあるだろう。
シーモアで秘密という語で検索すると100頁に渡って書名に使用されている語と判る。安易に用いると覗き見志向の露悪な話になりかねない。本作が全面に出している、愛し愛され、または、信じ信頼される関係の下に話す=一歩前に進む、は、本当に難しい。
「掟」の邦題は全く合ってない。
思いきって言ってしまえば、結果から振り返って言って良かった、とはなることかも知れなくても、抱えているときに他言などなかなか。
ヒロインのように、打ち明けようにも、タイミングやシチュエーションなど事情が揃わないことも。
この二人は、その壁を崩すのに回り道してしまった。それは状況をこじらせて、人の心を頑なにしてしまう。もう一度歩み寄る努力を払うときは、人の忠告が、大好きな人からの心からの言葉が、ヒロインには必要だった。
次は、彼の番。彼もまた、彼の側での他人に知られないようにしていることを抱えていた。
この代わりばんこの、心の重荷の荷卸が二人の関係、周囲との関係を堅固に。
ヒロインが、私が養うわ、の申し出が素晴らしい!
HQは、男性に地位も財産もあり、何だかそういう人に見初めてもらえてシンデレラ、型の、女として理解はするが、ばっかりだと辟易のストーリーで溢れかえってる。お金が目当ての女が嫌と、ヒロインの相手に女性への不満を漏らさせておきながら、ヒロイン自身が人(読み手?)も羨む上昇志向満足度MAXの結末。こんな流れには時々、女性という生き物の面倒臭いズルさを思うのだが、本作は、給料が高いわけでもない準教授レベルで、私が食べさせると。
ここにかっこよさを感じて、物凄く気分がいい。
別れる時って、やはり別れるだけの理由がしっかり無いと、ズルズルしている時間を作ってしまう。それでも、関係を築き上げていくには、二人とも相手の方に近寄らないと(そのエネルギーが、残っていれば)。そんな、当たり前なんだけどこじれてる間柄には難しいことを描写していた。
藍先生はHQにふさわしい女性、子どもじみたところのない雰囲気を持つ女性を、しっかり表現してくれるので、二人の姿を嘘臭さなく読むことが出来る。
他の親族女性達、それに兄弟関係とかも、自然な差し挟み方で漂う空気を示して、変化を感じ取れた。