劣悪な環境で生命の危険もあるというダートムア刑務所。無事出てくることを待ち続けたヒロイン、もう男爵令嬢だったなんて過去、数奇な半生の一つのピースに過ぎない気がしてくる。
やんごとなき貴族令嬢のはずだったヒロインが食べる所住む所確保のために働き、庶民の日々の暮らしに入り、英国政府にとっては危険分子である、とある「ヤンキー」と恋仲になる話。アメリカの、英国からの独立戦争で、英米は互いに敵味方、立場それぞれ。
起伏に富むストーリーを手際よく捌いて結末まで波乱万丈。ストーリーは面白みがあってダレずに気を持たせて、どこにもありきたり展開なし。
けれど、メインキャラの二人のツーショットとしてのビジュアルに見とれる場面がなく、二人の関係発展にうっとり酔っていられない。
立ち止まることなく話が進行している中では、恋愛感情がいい感じで深まりあったりする過程や、二人の間に漂い始める甘い空気を、私はどこか楽しみにしていたのに、味わえなかった。
英米の戦いがもたらす風向きの行方もそうだが、ヒロイン達の住む村、という小さなコミュニティでも、敵味方の入り乱れでクライマックスまで登場人物の配置は落ち着かない。
あっけなく二度目の収容。
一体刑務所に無事の出所を期待出来るものだろうか?荒くれもいれば、無法がまかり通る小さな底辺生活は、彼を拾ってきた一番初めの刑務所描写によって読み手のこちらに知らせたではないか。何しろあとがきにはより過酷な史実に言及がある。どこがむしろ安全なのか、説得力不足。
信じられる人、信じられない人、このストーリーはどんでん返し的に配して面白くしようとしている。
そこは確かに効果もあるのだが、その分、顔つきで悪人善人の別をアピールすることが出来ず、話の中で分かりやすい立ち位置を取らないゆえ登場人物に親近感を抱けなかったのも事実。
彼がシャバに出ている間にこざっぱりとしたイケメン現わるかな、との密かな期待も、数コマだけ。結婚しよう、のところ「だけ」私の中の好みの外見。
話が面白いなら目をつぶるべきかとも思いたいが、話だけなら活字でいいわけだ。やはりここは、ヒロインの眼に映る彼の姿には、例えば再会の時になど、何倍増しのルックスに見えちゃう、というのを、ヒロインの眼を通して確かめたかった。