のっけから繰り広げられる広大にして、恐ろしく狭い「家」と「家族」が放つ陰鬱で妖しく、それでいて底なし沼のような吸引力を持つ舞台設定に圧倒される。ここに描かれるのは、不気味な家に囚われた、ただの一個の家族…。唯一まともで怖がりで余りにも無力な主人公から見れば、自分以外は誰も彼もが肉身とは思えないほど特異で狂気に満ちている。各人の狂気はやがて絡み合い、取り返しがつかないほど暴走し、やがて破滅の時を迎えるのだが……恐るべきは日野御大の凄まじいイマジネーション、なんとそこから物語はさらに深淵の奥深くへと主人公を、読者を誘うのだった。まずは一度、最後まで読んでみてほしい。何度読み返しても飽きないこの作品の魅力は、まさに家に囚われた主人公が陥るループ構造に重なり合う。我々読者もまた不気味で深淵なるこの家に囚われ、延々と終わりのない悪夢に耽溺させられてしまうのだ。