よくある『人外に恋した人間が結果として悲劇的結末を引き寄せる』類の話とは大きく趣を異にする異類交流物語。
オゲハの純粋無垢な振る舞いの可愛らしさに包まれた恋情とも生殖本能ともつかない感情はもちろんだが、キジの人格描写もものすごい秀逸。というかこの話の中の登場人物皆の人格描写が非常にリアルな感じで秀逸なのだが。
キジは、他者への攻撃性・狂暴性の低いサイコパスそのもの。他者の感情に共感できず、社会・集団になじめず、噓を吐くことに対して罪悪感が無く、世間・倫理的によろしくないことをしている自覚があるのに良心の呵責や苦悩といったものが感じられない。ごく平凡な能力しかない、一般社会に折り合いをつけて生きている類のサイコパスの少年の姿が克明に描かれている。作者様あとがきによればどうも意図したものではない様なのだが、それが逆にリアルさを出している要因かもしれない。閑話休題。
とにかくそういった登場人物の人格や心情を、独白・心の声なしで描写しているのがすごい。何気ないこと、ふとした会話、仕草、そういったものが心に影響を与えて複雑な感情を拗らせて葛藤し成長していくさまが恐ろしく生々しく描かれる。
物語のラストで辿り着いた感情は、一人と一匹の絆は、果たして親愛か? 恋情か? それとも単なる獣欲だったのか?
そしてそれは、人と人とが育む絆と、いかほどの違いがあるのだろう?