とにかくクリーンな感じのしないどちらかというとダーティーなやり方で、牧聖一は(名付けの妙!!)のしあがる。ではそれが思い切り胸糞なのかと言えば、不思議にもそこまでそうではない。
いや、何度も、褒められないことばかり画策している主人公に、そこまでやっても勝ちたいのか、あ、その前に騎乗のためにそこまでやるか、という呆れも。
ただ、それらの画策に、頭を使ってる。悪知恵、という真っ当さのない部分。
主人公には主人公のリクツがある。なぜそうなるに至ったか、という彼の勝利への執念を成す、譲れぬ過去のアレコレが。お綺麗事では生き抜けない、生き馬の目を抜く(これはフィクション)とはこの事か。
醜悪なやり口が見てられないか、というと、彼の、目的のためには手段を選ばないところが、変にこの全3巻のストーリーを見届ける気満々にさせられるアクの強いところ。
「ゲス」と来れば下衆、そう思って、主人公のゲスっぷりを読んだつもりだった。
最終回で、ゲスって、そっちの意味も隠し持ってたのか!?、と、作者にしてやられるのだ。
そうか、彼はもともと「アンラッキー」にまみれもしてきたし、他人の自分本位さのあおりも受けて、正攻法で乗り越えられないと考えるほどに、一敗地にまみれたのだった。という、それでなりふり構わずやっても果たしていいのかどうかという、モラルの是非をさておいて、ストーリーは彼の動機を正当化して押し進める。そこに、この話の面白さがある。
悪巧みを見届けて、裏側から抜けていく逆転の構造を楽しむような感じだ。
絵は主人公が女性のようにも見えてしまうが、私が知らない騎手達や厩務員の世界がそうなのか!?、と思わされる説得力(繰り返すが、これはフィクション)。
いずれの女性もクセがあり、女性不信傾向。
少女漫画を日頃読む私には取っつきにくいが、まるで競馬の世界のバックステージを見させてくれたようで、野次馬気分になった。
麗しい人間性や、崇高で清らかなプロ魂も、フェアを尊ぶ気高さも、いっぺんの欠片も無い。正義の気持ちを下地に読める読み物とはいえまい。だが、こうした悪いことを考えてうごめく姿も、この漫画は面白い読み物に仕立ててくるなぁ、と、感心させられた。