ヒロインは周囲の男性を惹き付けずにはおけない、所謂男好きのするタイプ。当人も人の関心を集めている状況を良く判っているけど、でも自分を好いてくれている男性の中に、自分が好きになる人を見つけられないでいる。贅沢だとハタは思ったとしても、当人にとってみれば、自分が本当に好きになった人に振り向いてもらえないなら、結局辛いだけ。そこ、ヒロインの、希望を持てない心境は割とよく書かれていた。
だが、最もたっぷり読ませたのは、彼、シンジンの、形の上でもそして心の中でも一旦区切りをつけざるを得なかった、完全喪失の恋の後の彷徨。初恋にして、想いを通わせ合った経過の末の、苦しみ。
では何で、駄目になったのか。軍隊入隊という逃亡策で彼にも一因を持たせた。この物語の設定として、前作のセアラ、本作のシンジン、どちらにも二度目の恋を成就させる作者の意思を感じる。だから心の片隅にかつての恋人は居て、それでももう別の人が今は大切な人に、というストーリーは良かった。シンジンの、クラリサに抗えない魅力を感じるさまも理屈先行でなくて良かった。この彼、一度目の恋の時は尻尾巻いて、セアラ放置の退却をしているのと好対照、今度こそ相手がどう出てこようと自分の意思表示と、断固とした押しの強さ全開で、大人の男っぽさで行動した。
誰のせいで、シンジンはセアラと結ばれなかったのか。
いつの間にか年月経過の果実でシンジンの母を変えているのを、成長とか改心とかで軽々しく読み過ごせなかった。その葛藤は誰よりもシンジンがもっと見せてくれたのなら、と思うが、触れられてはいても、母豹変に対する脱力感のリカバリーが私的には物足りなかった。
親子の力関係も変質し、若い恋人たちを潰すのはどこの世界もいつの世も大人の横やりだなと現実に準えられた。
アナザースカイがあって良かったよ、って、終わりよければ全て良しのHQでホッとする。
ヒロインの、考え無しの行動2回も、彼女の性格の現れ、という形として辻褄合わせはあるものの、どうも、フィクションあるあるの、ピンチを自ら作りに行くパターンにも見えて、なんとなくのめり込めない。
ただ、シンジンとクラリサが別個に、どこか共通点を持っていると伺わせるエピソード描写が、胸をすくところで、それらがあって話が豊かになったと感じる。とても気持ちがいい。
2作セットで買ったが、既読明確化の為レビューを記す。