話に面白く振り回され5つ星としたが、伯爵が幸せになれて良かったと心から思う話。
新婚旅行で欧州大陸周遊の長旅。お定まりの、愛してくれてない、と思うスレ違いは旅行後のほうが暗い影を長く落とす。
ヒロインであるタリーは結構変人。ロマンス物にありがちな、モテる男性がヒロインのナチュラルなキャラにひかれて虜になる、というレベルではなく、彼女の癖のある魅力にはまってしまう。タリーの辛みと、伯爵の人とのカベ感が、旨味を引き出すのに時間のかかるスルメのように、日々送り暮らすうちにいつの間にか、あなたでなくてはならない味となり、伯爵は気づいたらのめり込まされていた。
タリーはシニカルなことをスルッと口にしてしまうタイプなので、もし伯爵が優しく柔らかい人間関係で生育されていたら彼女とのやり取りは、もたなかったかもしれない。しかし情の厚さが特級品なのである。伯爵の選択眼は正しかった。そして彼女的には伯爵との結婚も、追い詰められた結果のこと。話中何度も妄想癖からの挿話有り。
爪を噛むのは不安定さの象徴か?彼女は止められない為、読んでて何となく薄気味悪い気分にさせられた。同情していいはずなのに、私の目にキャラ的に変わり者イメージに添えるものに感じてしまう。
レティシアのような女の冷酷さを持ち合わせた人間に利用されてはいるが、立ち働かされた形によってタリー自身機転よく逞しく切り抜けて生きていた。頭が特にいいわけではないが、ピンチを瞬間瞬間効果的に越えてきた強心臓の持ち主。海の匂い、旅の目的地の匂いの描写でも彼女らしさを伝え、輿に乗って進めるアルプス越えもなかなか面白かった。
伯爵は、ヒロインが衣料崩壊してるのに、目の前に日々接しながら気を回してやらず、旅が相当進んでからパリ入りに合わせやっと新調。そういう話なのだが、現実感は遠のいてる。彼、貧乏という状況に疎い。
タリーから、どうせそういう人間なんだろう、と決めつけられた悲しい場面では彼に同情した。
二人は競えるほど不幸な過去の境遇の持ち主。犬の話は犬好きには読めないエピソード。全貴族が嫌いになりそう。
だからこその、この2人がつかむ幸福はきっと、と期待できて大いに満足する。
予測不能なストーリーの為に字数の多さは気にならなかった。
既読の漫画は与えられていた頁数少ないことから、原作の豊かな枝葉が大幅割愛されている。