妻子持ちの主人公の男性教師(49)が、二十一年前に心奪われた教え子との再会から、その時果たせなかった思いを遂げるという、男にとっては切なくもノスタルジーをくすぐる物語。そうなんだよ。男は未練がましい生き物なんだよ。と、読んでいて共感しきり。しかし、である。女流作家の著者がこれほどまでに男目線に立てるというのが驚き。著者に対するとあるインタビュー記事で、男性読者から、「先生、男心を理解できるんですか?」とよく訊かれることがあるというのを読んだ。こうした鋭い人間観察眼も他の追随を許さない所以か。性描写は至ってノーマルだが、清純な学生が二十年以上の時を超えて好色な一面を隠さぬ熟女に変貌しているさまは、まさに脱皮を遂げた白蛇を彷彿とさせる。やなぎやこも本作を読んで触発され、昔の恋愛経験を思い出した。W不倫に至る女の心理の過去からの変化をもう少し掘り下げて欲しかったため星3つとしたが、おおいに想像力をかき立てられる良作であることは間違いない。