このレビューはネタバレを含みます▼
華やかな舞台の喝采から一転、社交界の暗部へと滑り込んでいく構図が鮮やか
本作の醍醐味は、巧妙に配置されたアリバイや証言以上に、演じることを武器にする人物たちの心理戦にあります
誰が本心を隠し、誰が役割を装っているのか――その曖昧さが物語に濃い影を落とす
とりわけ犯人像の造形は秀逸で、理屈の整合性よりもむしろ歪んだ自意識の迫力が読後に残る
一見すると早い段階で核心が見えたかに思わせながら、真相へ至る道筋には幾重もの緩衝材が仕込まれているのも心憎い?
ポアロの理知と人間観察が虚飾の仮面を一枚ずつ剥がしていく過程こそ、本作最大の快楽といえます