このレビューはネタバレを含みます▼
ポアロが歯科治療を受けるという、どこかユーモラスな導入から幕を開ける本作は、その直後に訪れる思いがけない死によって一気に不穏な空気へと転調していく‥
戦時下という時代背景をうっすらと織り込みながら、事件の背後にある動機や構図が少しずつ輪郭を帯びていく展開は、クリスティーらしい緻密さが光るところです
今回はヘイスティングズ不在のため、ポアロの思考過程により深く触れられるのも興味深いポイントでしょう
一方で、社会的陰謀の気配をにおわせる設定にはやや異質さを覚える場面もあり、従来の「閉ざされた人間関係の中の犯罪」とは趣を異にしています
それでも、巧妙に配された伏線と終盤の論理の組み上げは読み応え十分で、複雑な謎が静かに収束していく過程には納得感があります
派手さよりも構成の妙を味わうタイプの堅実な一作