短編の中でもさらに比較的短い9編を収録した短編集。特徴はいずれも性描写があっさりしていて量的なボリュームも限定的、あるいはさあこれからはじまるぞというところで終わっている。性愛小説である以上、通常であれば物足りない、という感想になるのだが、本作品集では、それぞれの主人公の心理が精密に書き込まれ、ほどよく抑制のきいたところがかえって上品で物語性の強い仕上がりとなっている。そのためこれはこれで高く評価したい。ただ個人的な好みを差しはさむことが許されるならば、7番目に収録の「戻り梅雨」が筆運びが単調で見劣りするか。ために星は3.5としたく、四捨五入しての星4つ表示である。余談ながら、本短編集は3番目に収録の「花雫」と同名かつ取合せも全く同じ作品集が2000年2月に実業之日本社から刊行されており、重複買いに注意である。