進藤あつ子氏の文章がとてもいい。一文一文凝っているように見せずに、ストレートな単語選択が豊富な語彙を裏打ち、全体に流れがあり、滑らかな結ばれ方運ばれ方。
本当に好きな人と巡り会ったならば、たった一人の肉親とも訣別。その過程で、ヒロインセアラと双子の妹カレンとの強い繋がりが、姉を思うがゆえにヒロインの恋路に巧まずして立ちはだかる。その姉妹愛の横軸描写の構成が、ただの女きょうだい以上の、独特な関係を持つ双子ならではのお互いの存在の大切さをたっぷり見せる。きっと幸せにやってる、との心の中だけの確信をカレンに抱かせることで、不幸があったように見えて実はそうではないんだと、残された者への思いやりも見せて、もう一人の大切な登場人物、カレンのほうに対して自己投影しそうな読者を救済する心配り。冒頭の不幸な彼の事も救済。
タイムトラベル物の宿命であるタイムパラドックスは、ここでは最小限になるよう工夫もあって、洗練された時空超越愛を見せてくれる。
作中カレンに言わせている、「人の運命というのは、他人が決めることも、変えることもできないものでしょう?」に挑戦する究極のやり方がセアラの選択した道。同時に作者の挑戦、という事なのだろう。
「これからは失った命ではなく、救った命を数えていくことにしたよ」(マーカス)の言葉も、出会って真剣に相手の事を考えた先で起こった事への、彼の実感をしっかりと伝えて、説得力がある。そして、「僕に生きる理由を与えてくれてありがとう」の台詞も、彼の助けとなりたいセアラの後ろ楯となって良かった。
翻訳者の日本語の文章力もかなり大きかったのではないか。実は、各文の、入り方、止め方にも、さらりと工夫が入っており、一切どこにもいわゆる翻訳調の影が無くて、読み手のリズム感が大切にされている、と感じている。
マンガの方も細部まで手が込んだ絵で素晴らしかったので、どちらの形もそれぞれにいいと思う。
結局愛する者が幸せであることが重要なんだなぁ、というストーリー。