このレビューはネタバレを含みます▼
一つ前のノンケの男性が同性に恋愛感情を抱く過程の描き方に感じ入った作品のレビューを書いた後、フォロー様の飲み屋でマウント取る男性陣に対するコメントを読んだ後、たまたまこの作品を読んだからでしょうか。
それとも、フォロー様を教えていただいた「おしえて!BLソムリエお兄さん」を読んで以来、「こころ」をはじめとする匂い系作品が、完全BL目線でしか読めなくなってから、この作品に接したからでしょうか。
とにかく、安吾が太宰の入水事件後に、太宰を追悼するかのように書かれたこの短編に、安吾の太宰に対するただならぬ思い、追慕を含むクソデカ感情を感じ取ってしまい、太宰の人たらしぶりに嘆息したのです。
最初の安吾の歯痛の話は読み飛ばしてもらうと、太宰の入水事件を知った時の話となり、その臨場感に引き込まれます。報道されるより前に太宰の自死を知ったという俺しか知らないとっておき話に始まり、太宰ファンは太宰を分かっていない、とこき下ろしてマウントを取った後は、ひたすら太宰が良家の生まれで、本当は慎ましやかな恥を知る人間であり、孤高の魂を持つ人間性豊かな人であるのに、内面に虚無を抱え酒に溺れて自虐的な作品を書くのは、太宰の虚弱さゆえなのだ、でも見よ、あの素晴らしい作品を、と延々と太宰本人より、俺の方が太宰のことを分かっているんだぞ、と言いたげな文章が連なります。志賀直哉、芥川龍之介にも、太宰の心中相手にもマウントを取る安吾。本当に太宰のこと、好きなんだな…というのが、言葉の端々から伝わってきます。
でも、自死をした太宰を不良少年だと呼び、最後は生きてこそ、人間だ、と言い切ることで、太宰が選んだ選択肢を否定しつつも、その口惜しさをにじませ、同時に有限の時間を、負けずに生きるのだ、と生きる者へ視線が移るラストには、自分の死生観と太宰のそれは違うのに、それでも太宰に惹かれてしまう思いを断ち切ろうとしているように思え、思わず安吾をよしよし、と抱きしめてあげたくなりました。
BLを読む前なら、こんな風に安吾の太宰への想いを感じ取ることはなかったでしょう。しかし、一度こちら側に渡ってきたら、もう昔の自分に戻れないのだな。そんなことを、この作品で実感しました。太宰をとりまく男女の人物相関図を作ったら凄いことになりそう…と想像を巡らせたところで、グッド・バイ!