短編集だが、やはり表題作「もっと深く」にコメントせずにはいられない。ストーリーは40歳を過ぎて未亡人となった主人公が孤閨の淋しさに耐えかねて元カレのもとに押しかけて、あとはお決まりのパターン。だが再会するまでのヒロインの逡巡ぶり、迷い惑う心理描写がことさら丁寧で、簡素な筋書きでもパーツを丹念に掘り下げて書けばこれだけ読み応えのある作品に仕上がるのだという好例である。そしてカラミの部分。記述の質・長さともに力作というべき出来。ここではあえて詳しく書かない。お薦めなのでご自身で読まれたし。その他にも秀作を収録。正直なところ、氏の短編集はやなぎやこの好みに照らして当たりはずれがあったが、本作品集は佳いと思う。