江戸時代、伊豆鳥島に漂着した後、本土へ帰還した船乗りたちの実話。第一部では享保・元文期の漂流譚を中心に、第二部では天明・寛政期の漂流譚を中心に据えているが、おそらく鳥島へのほとんど全部(記録が残るもの)の漂流について触れられている。まずはその数の多さと壮絶さに驚かされた。広大な太平洋の中にポツンと置かれた絶海の孤島へ漂着する確率はどれほどのものなのだろう。漂流者は九死に一生を得て鳥島へたどり着いたが、そこは木も生えない活火山。無人島で水もなく、見渡す限り大きな白い鳥に埋め尽くされている。すでに多くの場合船も破損している。たまたま漂流してきた船に助けられるという稀有な例もあるが、ほとんどは自力で船を設え脱出し帰還している。その勇気と生命力には感嘆するほかない。同時代人たちも同様だったらしく、多くの口述書が「漂流記」として残されているようだ。筆者は研究者として、それらの「漂流記」を丹念に追い、実像を描こうと努めている。本書は明治初期の漂着事例をもって終わるが、その後鳥島で起きた数々の出来事にも思いを馳せる時、なんだか鳥島に頭を下げたいような気分になる。「恩愛深キ鳥島」流木で一から船を作り、ようやく脱出した天明・寛政期の漂流者たちが、遠ざかる島に抱いた思いに胸が詰まる。