浅井リョウという作家には、人間が精一杯取り繕っている体面を、あっさりと引きはがしてしまう特殊能力があるんだろうか。
最近読んだ小説の中で一番衝撃を受けた作品だ。
一見、無関係に見える検察官、寝具店の契約社員とかつて同級生だった食品会社の会社員に大学生の学祭役員になった女子大生と準ミスターに選ばれた大学生。果たして何が見えるのか、と傍観者として彼らを見ていたら、その接点が見えてくるにつれ、彼らが内面に抱えているものが姿を見せ、目を逸らせなくなるほど惹きつけられ、この作品が何を描こうとしているのか見届けたくなる。
それは希望か絶望か
分断か連携か
何が正しくて何が邪なのか、と心は揺れに揺れる。
作者の意図を考えると絶対ネタバレはできないのだけれど、BLを読んだりして、多様性というものを理解し、受け止めたいと思っている自分にとっては、クライマックスに近づくにつれ、刺さる言葉に連打されているような、でも麻痺しているような感覚のまま、読み進めてしまう吸引力はさすが。
マイノリティーの中のマジョリティーだけを知って分かったつもりになっていないか?
それは、作中のある人物に対して発せられる言葉なのだが、一度この作品を読んだら、いつまでも心から離れない磁力を持っている。
そして、気付いたら傍観者として読んでいたのに、登場人物がどこかしら自分を反映しているように見え、感情移入したところで最後にパーンと放たれたような気持ちになるラスト。そして読後、遠い対岸からこちらをジッと見つめる視線を感じるこの感覚…確かに一度読んだら読む前の自分に戻れなくなる作品だ。
まだ読んで日も浅いタイミングで映画化することを知り、思わずレビュー。映画館からの帰り道がどのような足取りになるのか。自分としては、大学生の諸橋大也、彼の行く末が見たくて続編を書いて欲しいと思っていたほどで、映画化により、なんらかの再構築がされるのか、誰が演じるのかとても気になるほど思い入れのある登場人物となった。もし気になっておられるなら、どうか手にして、その目で何を感じるか確かめてみてほしい。そんな想いを抱いた1冊です。