このレビューはネタバレを含みます▼
豪華客船という閉ざされた舞台で起こる盗難と殺人――本来なら緊張感が支配するはずの状況を、本作は大胆にもスラップスティックな笑いで塗り替えていく
次々と発生する騒動はファルスとしての勢いとテンポに満ち、読み手を推理よりも「場の熱」に巻き込む構造
そのため、論理の積み上げを期待すると肩透かしを食らうが、終盤にフェル博士が安楽椅子探偵として提示する整理された解明は、散乱していた断片を鮮やかに回収してみせる
残忍さを孕んだ真相と軽快な喜劇性の落差は好みを分けるものの、カーがミステリの形式を戯曲的・活劇的に拡張した実験作として読むと、その異色さがむしろ魅力に映る一編