ネタバレ・感想あり夜に星を放つのレビュー

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【販売終了のお知らせ】

本作品は諸般の事情により販売終了させていただくこととなりました。ご了承くださいますよう、よろしくお願いいたします。

孤独な人の心をあぶり出す短編集
2023年9月29日
主人公は男性だったり、女性だったり、年齢も様々で、短編を通して様々な世界を見せてもらうことができました。普通のドラマや漫画だとこの人とくっつきそうだな…と思わせておいてそうでなかったり、うまくいきそうでいかないところにリアリティがあります。けれど、ただ現実の厳しさを描いているわけではなくて、心の機微が丁寧に綴られ、家族の思いやりや愛情も細やかに描かれているので、途中何度もじんときて涙するところがありました。正面からコロナ渦を題材にしているプロの作家さんの作品を読んだのは初めてでしたが、鬱々とした時代にあっても語り口は優しく朗らかで、前向きな気持ちで読み進められるところも魅力的だと思いました。どんな時にも夜空を見上げれば星があるように「希望を持って進めばいいんだよ」と言われているような、爽やかな読後感でした。
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心の穴を塞いでいく、点滴のような短編集
2022年9月10日
日中かなりの活字を読まなくてはならない日々が続き、ある日、漫画を読んでもセリフがまったく心に入ってこない状態になってしまった。
が、移動のためまとまった時間車内にいなければならず、読めたら読もうと、直木賞受賞を機に購入したこの小説を手に電車に乗った。生まれて間もない男の子を亡くした経験から、亡くなった人が何処か近くにいるのではないかという感覚がある、というお話をされているのを聞いて、そのような経験を持つ人が紡ぐ物語とは、どのようなものか興味が湧いて積んでおいた本だった。
5編からなる短編集で、登場するのは、双子の妹を脳出血で亡くした32歳の綾、クラスでいじめにあい、母を交通事故で亡くした中学生のみちる、離婚後、父に引き取られ、再婚した父、再婚相手、2人の間に生まれた子と生活する小学生の想…どこか喪失感を抱えた人々。そんな少し低い温度の環境の中にいる人々を描いているのに、文体は平易で、心にするする入ってきて、いつの間にか主人公の気持ちに自然に寄り添っていた。心の中のしぼんだ細胞が、水分を得てみずみずしく甦っていくように満たされた気持ちになっていく。少し心が弱っている人の心にも届くようにという、作者の祈りが内容にも、文体にも込められているように思え、心地良い。
どれも、日常から5ミリほど浮かんだ空間に主人公共々置かれるような内容で、星や星座にまつわる話題が現れ、それが転換点となり主人公が少し前に歩み出す。星は不変のものの象徴で、道を見失ったときの道しるべの役割を果たしているように、人生の道しるべの役割を担っているかのようだ。読後、自分も共感して気持ちが調っているのに気付いた。印象的だったのは、心配をかけないようにいじめにあっているのを母親に隠していたみちると、彼女を思って身体をなくしても寄り添い、守ろうとする母親との関係性を描いた「真珠星スピカ」。話せないのにいじめの渦中にコックリさんの10円玉の動きやコロッケにしのばせた宝物で自分の存在を示したり。そのはかないのに暖かい存在感に、作者の経験が生きているように思え、母親の思いに胸が詰まり涙が止まらない。哀しいはずの体験を、身体はなくても近くで見守り続けているという感覚を伝える物語にし、共有できる形にすることで、救われる人々がどれだけいるか。心に空いた穴を塞ぐ力が小説にはあるのだと実感した。素晴らしい1冊でした
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作家名: 窪美澄
出版社: 文藝春秋
雑誌: 文春e-Books