このレビューはネタバレを含みます▼
研究者から作家に転身、という作者の経歴が活きた作品。
その土地土地の自然や歴史に根ざしたリアリティある描写をベースに、繊細な人間ドラマが展開されます。根底にあるのは、何か大きなものに対する人間の畏れ、といったものでしょうか。
どの話も面白く読みましたが、個人的には「祈りの破片」という話が特に刺さりました。
長崎の原爆投下という悲劇の当事者となったある人物の苦悩を、科学と宗教という一見相反する立場を交えつつ、現代に生きる平凡な公務員の視点を通して追体験する、という構成が秀逸です。
直木賞受賞も納得の良作と思います。