なんて美しい愛!サムの愛、マイケルの愛。
セイントであろうとして自ら苦しんだ男、サム。ヒロインイーヴを愛することは、悪魔の所業と。
この話はマイケルが嫌な人間だったら成り立たない。かくも麗しいマイケルの愛は、マイケルこそセイントにふさわしい崇高さ。何年も求婚して、やっと晴れて夫になるのもあと一歩のところまで来て。寄せてきたものが本物でなかったらそこまで妃候補を絞りきってない。高潔な紳士は最後まで本当の紳士で、彼に泣かされてしまった。
もとなおこ先生の絵柄は、全体がふんわりぼんやりしていてきつくないから、このストーリーの持つピュアさに合う。
欲を言えば、顔の輪郭線がより印象的ならな、と思っているが、溶け込んでいる。
世の中こんな綺麗だったらもっと生きやすいのかも知れない。
サムの長年の苦しみを思えば、帰ってきて再会してからの再びの苦しさ更なる辛さを想像すれば、思慮深い彼に対するマイケルの慈悲は敵塩、その慈悲なくしては成立しないクライマックス。
それも、投げつけて寄越すのではない、まるで、自分の今後の苦しみ克服もせめて半年に留めることを期して、そのあかつきを見越すかのような潔い引導の渡し方。恐らく、婚約者に逃げられた噂や同情や不名誉に耐え、更に喪失感、孤独感と付き合わなければならないのに。彼の心の涙は、その前に突然突きつけられた驚きと喜びとが、少しは埋め合わせてくれるかもしれないけれども。
マイケルがこんな人物だからお話が綺麗。
大体が病の子どもを抱き上げておたふく風邪を移されるだなんて、そんなことがありますか、神様。しかもそれを理由に使うだなんてもう。背中を押す手の優しさ!!甲板を見上げるヒロインをサムはなんと可愛らしく感じたことだろう。
そういう思わせ振りアングルで、眼下に現れたイーヴをサム視点で写す、ドラマチックな語り口。
鼓動の重なるエピソードと絵が良い。
何処を取っても無駄がなく唐突でなく流れるよう。
何度読んでも唸らせる味わい、星は6つ以上献上したい気分。
昨日「女王陛下のお気に入り」というこれとは両極端の映画を見ただけに、この清らかなHQに心が洗われた。王族・貴族の決して崇高でない人間模様と、このHQのマイケルのような、人間として気品を保ち、そして貴族として模範的に活動、また何より男性として立派、それは、私の中でこれ以上無い位の、物凄い対比となった。