作者買いしている雲田先生の短編集。雑な線のない、味わいるある絵柄に柔らかな身体のライン、そして6つのCPのそれぞれ単調でないストーリーが味わい深い。これが初コミックスとは。そういう目で読み返すと高い完成度に驚く。
特に心に残ったのは、写真家黒木礼と付き合っている助手野々瀬が、礼のかつての恋人で別れを告げずに行方をくらませた石渡青二からの受賞祝いの葉書を伝手に探しに行った顛末を描いた「あなたには言えない」。青二が礼にだけ見せる色気のある目が全てを物語っているような、と思っていたら、次の「だいだい色に溶け合う」が2人が付き合っていたときを描いた作品で歓喜。
礼の魔性の色気に、依存し合うように溺れていく青二。既に結末を知っていると、二人の想いの深さと、相反してそれが刹那的なものであることに心が動かされる。青二、言えなかった気持ちも分かるけど、愛する人から何も告げられずに姿を消されたら、ずっと想う気持ちは残ったままなんだよ、愛の呪いのように、と、青二に声をかけたい気持ちになる。最後にファインダーを覗いている青二と被写体になっている礼の気持ちの食い違いが、見ていて切ない。青二はこの時点で身の振り方を考えていたんだろうな、と。うーん、余韻の残る良作。
最近、感染症も収まってきたけど人とのコミュニケーションは以前のようには戻っていなくて、平日は心を擦り減らすことも少なくない中、自分にとって良い作品とは日頃動いてない心を動かされる作品なんだなあ、とこの短編集を読んで実感した。
余談ですが、子供たちに聞いても、みんなマスクにオンラインで恋愛につながるような出会いやきっかけがないらしい。自分は2次元で心が潤えば充分だけど、結構シリアスな問題のように思ったりして。