誰も死なない、過激なラブシーンもない。
ただひたすら、日常の風景や登場人物の心の葛藤を描き続けていく手法ながら、冗長にならず続きが読みたくなるシナリオや描写が本当に素晴らしい。
ありふれた主婦のあやと、トランスジェンダーのけいとという2人のメインキャストを二元的に描いていることがその要因であることは間違いないが、特筆すべきはその周りに登場するサブキャスト達がある程度の個性を与えられながら、それでいて突出せずにストーリーのリアリティを保たせていることだ。
そして、何より誰も悪者にしていないことが素晴らしい。
それは綺麗事ではない。
人間関係、特に夫婦や恋人同士など、元々他人だった者同士が生活を共にするようになれば、価値観の違いによって傷つけ合うことは不可避である。
それでも最後に守るべきは自分自身が本当に大切にしているものだということ、だからといって相手が悪という訳でもないことをこの作品では表現してくれているように思える。
タイトルでも書いたが、似たような境遇からあと一歩抜け出せない疲れた大人の方には、ぜひ読んでみていただきたい。