落語に魅せられたムショ返り男とその師匠の新旧の主人公の生き様がそれぞれに描かれています。
特に師匠とその兄弟子とのライバル関係に、師匠に惚れた芸者上がりの女性が絡み、複雑な愛憎の物語が織りなされています。
絵は線が細くて雑に見える部分もあるのですが、師匠の若き日の表情は艶っぽくて妙に雰囲気があります。
師匠に親を殺されたと思い込んでいる兄弟子の娘からの愛憎もあり、登場人物それぞれの気持ちが複雑に絡み合って読みごたえがあります。人の中の情愛とは、こんなに一筋縄ではいかないものかと思わされますが、主人公の大らかな気質が全てを包み込んでいくようです。落語の噺が作中しばしば出るので、落語もみたくなります。それほど長くないのに、ずっしりととても読みごたえのある作品です。おすすめです。