ヒロイン(侯爵令嬢メルフィーナ)は夫(公爵アレクシス)から結婚式直後に「君を愛するつもりはない。」と言い放たれます。しかしヒロインはひるみません。自分がゲームの中に転生したと自覚し、前世の記憶もあるからです。聖女が登場する前に断罪を避け、生活基盤を整える魂胆。夫から僻地の開発中で貧しい領地を割譲してもらいます。そして翌日には領地へと出発してしまうのでした。
ヒロイン、怒っています。生家では愛を注がれずに育ち、政略結婚で夫から愛されなくても、子供を数人持ち、子供との愛ある家庭を築きたい望みを、早々に打ち砕かれたからです。
しかし切り替えも早い。前世の記憶で近い内に飢饉が起こる事を知っていたヒロインは、主食のジャガイモの代替作物としてトウモロコシを主導して栽培させます。やがて飢饉が訪れ、他の地域が食料不足にあえぐ中、ヒロインの領地は飢えずに済むのでした。
余剰分を夫に売るのですが、たいそうなお値段。怨恨含みの値段設定です。ヒロインはもうすっかり割り切れているので、夫に対しては完全にビジネスパートナーとして接します。
ヒロインは前世の知恵を活かし、領地経営に励みます。それは農地改革であったり、農奴の身分解放であったり、特産品の開発や市街開発など、現代感覚に基づいた画期的なもので、奇跡的な成果を上げ続けます。
この領地経営の成功ぶりが作品の醍醐味。「どうぶつの森」をプレイするような達成感があります。日々の食事に事欠く貧しい農村が、毎日満腹になれるまで豊かになり、ゆとりと生き甲斐を得て、生き生きと暮らすようになります。それらをもたらすヒロインのチートぶりも爽快です。
登場人物も多く、ヒロインに引き寄せられるように縁ができ、癒され、また旅立って行きます。大勢の脇役も成長していく様も描かれ、作品の奥深さがあります。
ヒロインは慈愛の人ですが、領地が発展するにつれ、優しさだけでは治められない事態に見舞われます。冷酷と思えた夫も取引相手としては、公平で誠実だと気付き印象が変わっていきます。根深い「北部問題」の真相に迫ったり、とにかく大河ドラマのようなスケールの大きさがあります。まだまだ原作は続き、ヒロインの人生が描かれます。考証もしっかりされているようで、読み応えあります。結末まで本当に楽しみです。