かくかくしかじかの事情で信じられなかったんですと、一応言ったところで、傷つけられた側の相手が、それを受け入れてくれなくてはハピエンになれない。
彼の1日を「買う」背景を二つ用意されて、この話、ヒロインは目の前の彼を信じきれずに自分だけが彼を愛していると思った。
そういう調達方法でパーティーの相手を雇うこと自体が既に偽物だから、ヒロインが純粋にのめり込めない上に、もうひとつの偽りが絡む。
信じることは難しい、けれど、信じなくては終わり。人の評判は、嘘や誇張が混じる。
信じられていないと知ったほうはどれだけ辛く悲しいか。信じていないと(明に暗に)伝えてくる言葉がどれだけ、嘘をついていない人を傷つけるか。
嘘をつく人によって傷つけられたことも、思い出すし、私を騙す気の無かった人を警戒して傷つけたことも、思い出すし、本当なのに信じてもらえなかった悔しさ苦しさも甦って、読んでいると、つくづく信じることは尊いことだなと思った。
私はオークションで人を自由に扱う権利を売買するっていうのはどうしても、西欧の奴隷貿易を思い出して、この類の設定は余りいい感じしないのだが、この話は買われた側の意思が、買った側のコントロールに勝つところを何度か見せるエピソードを挟むので、私のもやもやが少しだけ軽くなる。
あんな父親、言わせておけばいいのに。
認めさせたい、その気持ちは分かるが、頑固な考えなんて、短期間で覆せない。考えの押し付けをする親はどこにでもいる。女の子は男の子は、という育てられ方をした世代だから、ヒロインのやろうとしたことに共鳴もするし、無理っぽさも痛いくらいに見てしまう。女性観を数十年で劇的に変化させられた欧米と異なって、その数十年で少ししか変われなかった日本にいる女子としては、その徒労感が、別の意味で読んでいて苦い話だった。
それにしても、普段は暇なのか?
三連覇世界チャンピオンはわかったけれど。
彼の顔は正面顔は同じ影付けて登場、この話はあまり彼サイドを見せたら読者に対する話の趣向の効果が薄れるから、とは思うものの、その顔は腹に一物ある表情に見えた。
狭い社交界で噂が立っていた形という話の作り、彼も噂を知っていた。その後彼の名誉はどうなった?
彼を信じきれなかった、というヒロインの後悔も、驚異的に短い時間の反省で済む安易な決着に、ドラマの収束感は私には足りなかった。