このレビューはネタバレを含みます▼
あらすじをざっと説明する。主人公・昭吾は愛の美しさと尊さを憎む少年だ。番う雄と雌を見ると乱暴を加えるほどの嫌悪ぶり。それが原因で精神病院に入院することになる(閉鎖病棟にいる患者たちの描写が生々しいのは手塚治虫が医者としての経験を反映させているのだろうか)。電撃療法中に意識はギリシアの神殿のような場所へ移る。そこで女神像から罰として永久に愛の試練が与えられることを宣告される。それは昭吾は何度転生しても同じ女性を愛すが、2人は結ばれる前にどちらかが死ぬという罰を受けるというもの。
物語のなかでは4つの愛が描かれる。時代や場所はすべて異なり、愛の形もそれぞれ異なる。しかしどの世界でも生物による愛と生の営みは絶えない。新たな世界に放り込まれた昭吾は毎度のこと、はじめは自然の営みに反発し否定する。その後走ったり戦ったり守ったりして愛を自覚し、ようやく女性と通じ合うというときに死が訪れ、次の運命へ飛ばされてしまう。
タイトルとなっているアポロは少女ダフネを愛すが、ダフネは拒絶したのち月桂樹に変化するというエピソードがある。「アポロの歌」は昭吾をアポロになぞらえ、結ばれぬ愛を繰り返す昭吾を、まるでアポロが月桂樹となった少女に歌を歌って聴かせているようだと例えたものではないだろうか。
この「アポロの歌」や「火の鳥」のような、悠久の時の中で愛と生死を繰り返す男女の大河ものを書かせたら、手塚治虫の右に出る作家はいないだろう、そう思わせた作品だ。