九州弁が作品に空気を運んでくるようで、離島、ロザリオ、と、そんな存在がしっくり入っている。
迎勉氏の戦時下の青春時代も、作り物臭くなくて驚くべき時代背景の活写力だ。劇画調でないのに、なぜこうも私の胸に時代性が迫りくるのか、これが小玉先生の切り取り方の巧みさなのか?(track#3)
皆で再びセッション、これが坂道のアボロン流ハッピーエンド。全方向収めようと(#5)した中で、千太郎だけがこうなの?と思う一方、このメンバーでこのストーリー、こうなることはなんとなくどこか覚悟していた。音楽は救済するけれども、取り残しも生じるのか、という妙な説得力。ただ、少女の別れ際の言葉が、彼のストーリーを貫く言葉として意味を持たされ、また彼の立ち位置が物語に陰影を添え、ストーリー上で象徴的だ。そして、関わり方もまた、象徴的。(#4)
全てを捨てて彼を追いかけたことと、二人の生活の不安定ぶりも、今に通ずるものもあるかもしれないが、典型的に当時の同棲にまつわるあれこれを、まるで本当にそばで見てるかのような、そこに当時迷い込んだ気にさせる。(#1)
先生の短編集「羽衣ミシン」を過去読んでいるので、そこまでこの坂道のアボロンの「ボーナストラック」を早く読もうとは、実は思ってなかった。本編読んでから間が空いた。
しかし、ファンタジーとかを出さずにストーリーに独特の空間の展開と時間経過、省き方の絶妙さ、これらを描けることは才能でしかない。
小玉先生の描線は私の好みではない。ところが、絵が好みであろうとなかろうと、作品は私をグッと引き寄せる。
私の好きな甘い恋キラキラのキュンが走る恋はない。カッコいい人も登場しない。ため息の出るかの女子の憧れを具現するシーンもない。
描いているのはそこではなくとも、恋愛物大好きな私を、がっかりさせない作品。