作者のサービス精神が良い。読み手の期待に応え、それ以上の満足感を毎話毎話細かいところで与えてくれて、二人のもどかしくもじわじわと恋人関係に収まっていく長い長いプロセスを楽しむ。安定の空回りが微笑ましくて温かい笑いを誘われる。不屈の愛あり思い込みの暴走ありで、最後までダレずに読める。柳くんの、九条とのやり取りのなかに、遂に九条が自分を?、との小さな喜びを見出だす片想いぶりはとても微笑ましいし、めちゃくちゃ笑えるしとてもかわいい。愚かしいとも姑息(!)とも見えるいじらしい行動の数々だが、彼は出るとこに出れば同年齢男子より立派に振る舞える、というのも、ギャップが楽しい。主人公九条への主人公柳くんの愛が、広くて強くてしぶとくて、本当に面白いストーリーに仕上がっている。
柳がかわいいのは思うところだが、結局ここまでになってくると、残念なイケメンでなくて、愛されるイケメンとはこういうことではないかとさえ思えてくる。愛情深いいいやつ、という面がカッコいい。
本気の相手には余裕なんて全然ないのが真実、その辺を味わえて、「ゲーム」なんて言ってられないぶざまさが、却って柳の人柄の良さに結び付いて胸を打つ。
九条のキャラも家庭の状況を知ると、笑い飛ばせなくなってくるし、空港シーンは、柳に、やっとのこと報われてよかったね、チャンチャン♪と明るく感じることで片付くほどサラッと読み過ごせない。
思わず周囲のことを忘れて抱き締めるシーンに、私は本当に彼の喜びを共感出来るのだ。
中学の放課後に三つ編みを手に取るシーンの柳、下宿的自宅マンションで柳が三つ編みを思い出して無意識に九条に触ってしまうシーン、先輩の引っ越し手伝いの時に柳が九条の髪を纏めるだけで済まず三つ編みを始めだし柳を意識する九条、好きな描写。
二人がタクシーでお母さんのところに駆けつける時と、それをめぐる、二人それぞれの直後や後からの回想もベタながら、いろいろな想いが写し出されて良いシーンと思う。
兎に角いい漫画だなと思う。
連載中からずっと読み、その間、渋谷駅コラボ企画があったり、東大生が選ぶ面白い漫画に選ばれる快挙に浴するなど、書店で扱われる地味さとは異なる切り口で注目されていたことを懐かしく思う。
サークル活動の感じも楽しめた、
私も大学時代、弱小の科学系でアウトドアでの観察主体サークルに所属していたので、結構共感した。