使い古された材料でエピソードもありがち、展開が想像を越えないけれど、ヒロインの心情がよく表されていて短い間の特殊な状況と、まずいまずいと思いつつひかれている心を抱える葛藤描写が良かった。
恋愛感情面、腰の引けてるヒロインと積極的に口説いて来る彼との間をもう少し、苦しく切なく危うく吸い込まれ落ちそうで辛うじて踏み留まるヒロインのギリギリとか、又はやっぱり楽しく嬉しく弾むひとときの恋の喜びとか見たかった気はする。だが、潜入なんて、信頼を台無しにする裏切り行為、罪悪感一杯で、そんなさなかにときめいてはイカン、というのもあると理解出来る。
恋愛モードに安易に入る訳には行かないヒロインの難攻不落ぶりを、悲劇にも、いっそ喜劇にも仕立てられず、中途半端に置いたのは、立場を理解してもそれでも、読み手の萌えどころは不足した。
休日のドライブ、ここはもっと甘い空気でも、踏みこたえてきたそれまでの彼女の立ち位置を、読み手の私は汲んでやれるので、構わなかったんじゃぁ?という気分。
または、そこも平静さを努めるヒロインの、彼の熱意に抗いきれなくなっての、箍を外す陥落っぷりを魅せてくれても・・・。でないと、ヒロインの内心は別として、外形的にセクハラにほんの少し近くなってしまう。
彼の攻め寄せの男らしさが、読み手としては宗真先生の絵故に発散するセクシーさとして、眼で味わいたかった、というか。好感を抱き合う二人の空気感の深まりを。
周囲の人物達の、二人の関係に対しては好都合となる複数エピソードの持ち込まれ方が少し、あざとい作り。
予測(読者サイドの期待)容易なのはもったいない。
尤も、昨今、ドラマとして巧い終わらせ方を、不満に感じる読者への迎合圧力、言葉を選べば「サービス精神」で、想像に委ねさせずだらだら描写、という過剰な提供が増えて、読み手がその先を思い巡らし、でも作家がそこを飛び越えてくる、という経験が少なくなってしまったが。
お姉さんの変化は、直前に読んだHQと2作偶然続いたが、本作の方が激変でないせいもあり、話の流れに不自然さがない。激変の方はドラマ性強まる分、読み手が振り回される。その振り幅を読み応えとして感じる人もいるかもしれないが、私は、埋め合わせの度合いのバランスが取れる本作のほうが、唐突感がなくて良い。
誤字誤植はHQから無くして欲しいものだ。