ネタバレ・感想あり樹の実草の実のレビュー

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才気しかない。静かに漂う空気に鋭く瞬く
2023年3月22日
こんなに線が細いのに作品世界は個性の強い独特の存在感。強いことをさらりと、深遠なテーマを軽そうに、そして、小難しい言葉を並べつつけむに巻く。饒舌な頁も、物事を達観したように距離を取ってくる感じ。当事者の語りは淡々としている。
この独特さにたまらなくひかれていたのに、何十年もすっかり忘れていた。 きっかけは、とあるテーマ でこの短編集のうちの小品「メニュー」 が、シーモア島で採り上げられたことから。
そう、 この乾いた感じが、虚無的な感じが、読んでいて意外に引力を持つ倉多先生の本作。
先生の後に続くような同系統の作家性の漫画家の作品には、まだ出会えていない。
タイトル付けがまた各作品の絶妙なところを捉えて、非凡だなと思う。

表題作38頁、「 イージー・ゴーイング 」38頁、「フェイブル君の夢」32頁、「赤ずきん君」「メニュー」(ここまで1976年)「自慢」「終末」「釘」各8頁、「球面三角」38頁(以上77年)
尚、「赤ずきん君」から「釘」までが、1万10秒物語の①から⑤。

倉多先生の作品は泣かせようという魂胆も無いし、大袈裟なものがなく、淡々と簡単ではない話題に絵がスルリと溶け込んでいる。

種々雑多な短編集だが、倉多先生作品らしさ、といえる共通項を、その様々な作品に投げ掛けられる哲学的な問い掛けの言葉の中に感じる。
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作家名: 倉多江美
出版社: ビーグリー