プライド(一条ゆかり)
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プライド(一条ゆかり)

一条ゆかり

ほんとうのプライドは

ネタバレ
2018年7月24日
このレビューはネタバレを含みます▼ 一見単なる女のドロドロ話ですが読み進めていくにつれて壮大かつ深い作品であることが分かります。さすが一条先生、終始テンポが良くて次から次へと読ませてくれます!題名どおり、人、親、歌手、女として...各々のプライドを情感あふれる物語やドラマティックな展開...またしみじみと深く考えさせられる場面もあり、人生の波や経験を積んできた人にはグサッと胸を刺された名言も多くあったはず。
ちなみにこの物語、最初と最後が同じ家でリンクしていますね。細かく言うと、萌が"史緒の家"に入るところから始まり、萌の娘が"史緒の家"で史緒本人を迎え入れるところで終わっています。が、親子でありながら二人の態度は対照的。大豪邸や史緒を前に緊張していた萌と違い、美恵はグランドピアノに戦慄くどころか、誕生日プレゼントにはおもちゃでなく本物のグランドピアノがいいとハッキリ所望するほど。
結末には賛否両論ありますが、個人的には萌は亡くなる必要があったと思います。なぜなら、美恵こそが萌がなりたかった姿だからです。歪んだ家庭環境による壮絶な経験から愛情と承認欲求の強いヒネクレ者と化していましたが、命をかけて守った娘は本来、萌が持っていたであろう素直で愛らしい母親譲りの子。分身であっても、ようやく萌はみんなを愛し愛される存在になったのですね。
そして、史緒に「入って」と促されるのではなく「お帰りなさい」と温かく迎え入れるところで幕を下ろしたのはこれ以上ない、感動的な結末といえるでしょう。
一方で、萌を亡くした史緒は、その後もずっと彼女の姿を求めながら歌手人生を送ります。最後、表現力も技術も名誉も何もかも全てを手に入れた彼女が唯一、欠いているものがあります。萌です。ずっと亡き母から歌を教わってきた史緒。今度は萌の存在から、また多くのことを教わるのでしょうね。
この作品のなかで本当に伝えたかったプライドとは、史緒にとって生涯、最も誇り高いプライド....それは「萌と二人で一つの歌声を奏でてきたこと」だと思うのですが、皆様はいかがでしょうか?
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